セミナーレポート『Carer’s Cafe〜シゴトとカイゴの両立〜』
2022年3月4日、「シゴトとカイゴの両立」と題して、介護に悩む求職者への有益な情報と求められる支援を考えるためのオンラインセミナーが開催されました。
ゲスト登壇をいただいたのは、介護問題の解決に向けて発信し続けている、N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社(以下、N.K.C)の神戸さん。介護現場で働き続ける、鳥取県介護支援専門員連絡協議会会長、医療法人養和会仁風荘事務部長の石田さん。キャリアコンサルタントとして若者の就労活動を支援している、特定非営利活動法人ワーカーズコープ AtoZさんいん事業所 副所長の大﨑さん。
セミナー前半では、神戸さんによる介護離職やヤングケアラーの背景についての講演。セミナー後半では、介護と就労それぞれの現場で活動している石田さん、大﨑さんを含め、「シゴトとカイゴの両立」についてトークセッションが行われました。
参加者は、仕事と介護の両立に悩む20~40代の方々。「介護をしながらでも仕事をし続ける」ヒントを得ていただくため、セミナーの模様を一部レポートします。
介護に悩む『ヤングケアラー/若者ケアラー』の背景とは
介護離職や介護問題の解決に向けて、情報発信と支援を続けている神戸さん。実は、20代で育児と介護の同時ケアを経験しています。
当時の神戸さんは正職には就いておらず、女性だから、家族だから、収入が少ないから、だから自分がやらなければいけないという思いから、親戚の介護を始めました。しかし、「罪悪感」を抱えた状態での介護は、心身ともに苦しい状態になり、家族ともぎくしゃくした関係になってしまったそうです。
現在、介護を機に仕事を辞めてしまう「介護離職」は全国で年間約10万人、学校でも、家族などの介護に携わっている学生が1クラスに1人いると言われています。18歳未満で介護を行う子どもたちのことをヤングケアラー。18歳~30歳までを若者ケアラー、育児などと並行して介護を行っている方をダブルケアラーと呼びますが、ヤングケアラーは学業との両立、若者ケアラーは就業との両立が難しく、家族だけで介護をするには限界があります。
しかし、N.K.Cが鳥取環境大学と共同で実施した介護に関する意識調査では、介護保険制度を知らない人が3割という結果に。介護相談の窓口は、病院の地域連携室、退院支援室、ケアマネージャー、役所や地域包括センターといった行政など多岐にわたり、ケアラーに役立つ情報提供も行っていますが、その情報を知らずに、誰にも悩みを打ち明けられず、介護の問題を自分ひとりで抱え込んでしまう若者が大勢いるのです。
一方で、介護相談で、仕事と介護の両立についての悩みを解決した例もあります。
毎日泊りがけの母親の介護で心身ともにストレスが溜まり、親子喧嘩も増え介護離職を検討していたAさん。窓口に相談したところ、ショートステイの利用やヘルパーさんの支援内容の見直し、保険外サービスの活用といった介護環境の改善を行うことになりました。その結果、Aさんも気分転換ができるようになり、親子関係を維持しつつ、仕事と介護の両立が可能になったそうです。
現在も、仕事をしつつ実の父親の介護を続ける神戸さんですが、ダブルケアラーだった過去とは異なる「自分を犠牲にしない介護」を実践しているそうです。その中で、今声を大にして言えるのは、「介護に罪悪感を感じる必要はない」こと。また、介護が原因で自分を犠牲にしたり自分を見失うことをせず、自分の未来図を想像して「今、働くことの重要性」を考えてほしい、と強く教えてくれました。
介護と就労現場から考える
~『介護×仕事』を続けるためには~
後半のトークセッションでは、保険外介護サービスの神戸さん、介護現場で働く石田さん、若者の就労支援を行っている大﨑さん、それぞれの現場の声を織り交ぜつつ、「カイゴとシゴトの両立」について、意見交換を行いました。
まず初めのテーマは、「介護と自分の人生を客観的に知る」ことについて。
現在、介護現場で活躍する石田さんですが、この業界に入る際に作成したのが、自分と介護の関係性を見える化した「介護年表」。自分、パートナー、両親、親戚、の年齢を軸に、仕事、結婚、老後など、それぞれの人生の転機を書き出していきます。そうすると、そこに自分がどう関与していくだろうかが、見えてくると言います。
普段、自分が介護をする、介護をされることを意識することはなかなか難しいですが、表にしてみると、いずれ誰もが介護の問題に直面することが分かります。人生100年時代と言われている現代、ひとりっ子や生涯こどもを持たないおひとり様も増えつつあります。今の時代、介護の対象は自分のご両親だけではなくなってきています。子どもが自立し子育てが終了した後でも、70歳を過ぎても両親のみならず、叔父・叔母などの介護を続けていく可能性も十分あるのです。
「見える化」することのメリットは、
① 介護を始める時に慌てなくてよくなる
② 自分の未来を客観的に考えられる
③ 介護が誰もが直面することだと知っていれば、協力者が必要になった場合にも
「誰かに頼る」ハードル が低くなる
早い段階で、自分と周りの人たちがどういう状況になっていくかを「見える化」して考えることの重要性を、石田さんは教えてくれました。
介護相談や就労相談の現場では、介護を考える相談者に対し、どのようなお話をしているのでしょうか。
介護現場で働く石田さんは、介護相談に来る方に対しても、2~3年スパンの年表を作成してもらうことがあるそうです。介護にやる気がある相談者に対しても、介護がどれくらい続くか、介護が終わった後の自身の人生についても、相談者に考えてもらえるよう説明しているそうです。
介護相談を行う神戸さんも、「自分の人生を客観的に考える」ことについては同意見でした。相談者の中には、介護のため離職し、介護終了後に再就職を検討している50代の相談者も多いとか。しかし、何年続くか分からない介護終了後に、再就職は本当に可能なのでしょうか?と問いかけることもあるそうです。
就職を考える際にも、仕事、結婚、老後など、人生の転機を軸にキャリアプランニングしてくことは重要です。「見える化」については、就労支援を行っている大﨑さんも大きくうなずいていました。
次に挙げられたテーマは、「若者ケアラーの現状」と「支援に向けての姿勢」について。
若者サポートステーションでは、就労意欲のある15~49歳の方を支援しています。2021年度の登録者数は232名でしたが、登録者の中には祖父母に育てられた方も多く、20~30代で介護を始める若者ケアラーも。親御さんや兄弟はいるが、家にいる自分が介護をしなければいけないと感じ、働きたくても就労できない悩みを抱えています。
また、親の介護をせずに働くことは辛いと感じていたり、責任感が強く、誰にも頼らず相談できずにいる若者も。就労の悩みを聞いていく中ではじめて、介護問題が発覚することがあるそうです。
介護のケースや、介護をするご家族の状況は様々。その中でも、「自分で頑張って介護をしなければいけない」「親孝行しなければ」と感じている人と、「介護はしたくない」と感じている人がいます。どちらが良い悪いというわけではなく、それぞれでサポートやアドバイスの仕方が変わってきます。だから、まずは本音を聞き出すことが一番大切だと、石田さんは考えています。
就労支援の現場でも、相談者に正直な気持ちを話してもらうことが重要になってきます。介護に対しての責任感が強かったり、就労支援の場で家庭環境や介護の話をしたらいけないのかな、と思う方に対しては、悩みを引き出す工夫が必要です。就労支援を行う大﨑さんは、セミナーを通じて相談者との信頼関係を作ったり、世間話の中から就労できない原因を引き出せるよう、相談者の心を開く「寄り添う」姿勢を大切にしているそうです。
トークセッションの最後は、「介護保険制度と地域の支援」についても意見が交わされました。
現在の日本では、高齢者は施設に預けるのではなく家族や地域で見守ることが推奨されています。しかし、就労と介護の問題があるなか、家族全体をサポートできるようなサービスを必要としているのが現状です。
今の就労者が直面している介護問題が、全て解消される制度ができるのはもっと先。だからこそ、地域が支援する体制を持たないといけないし、就労者を支援する種まきを行っていく必要があります。
トークセッションのまとめとして挙がったキーワードは、勇気を出して「介護についての不安や悩みを話してほしい」ということ。
現在、実の父親に対して自分を犠牲にしない介護を実践中の神戸さんですが、介護の専門家でも、迷いやしんどいと思うことがあります。介護現場に長年携わってきた石田さんでも、いまだに不安を感じることがあるそうです。自分だけだと思うと辛いですが、誰にとっても介護に正解はなく、日々迷い続けているものなのです。
だからこそ、まずケアラーに伝えたいことは、介護を自分の家族や自分ひとりの問題だと、「ひとりで抱え込まない」こと。介護に対する若者の心理的ハードルは高いかもしれませんが、まずは身近な人、もしくは行政に相談してみてほしい、と強く伝えてくれました。
介護の問題を一人で抱えこまないで
「介護をしながらでも、仕事をし続ける」ヒントを得ていただくために開催されたセミナー。介護の現場で活動するゲスト、相談対応をする方をゲストに迎え、最後まで熱い思いが飛び交う時間となりました。
介護の問題を抱えながら学業や就労に専念することは非常に難しく、若者を支える支援者が必要です。身近に相談できる人がいなくても、行政の相談窓口や若者サポートステーションのような機関に相談することも可能です。
介護の問題を一人で抱え込まないことが大切です。介護の問題を、一緒に悩んだり考えてくれる場があることを知ってほしい。誰かに相談してみることが、仕事と介護を両立するための第一歩ということを、これからも伝えていきたいです。
若者サポートステーションでは、就労支援スタッフやキャリアカウンセラーとの個別相談、各種セミナーを通じて、就労支援や情報提供を行っています。介護問題に関しても、引き続き専門家や地域の方々とも連携しながら支援を行っていく予定です。たとえ小さな悩みでも、サポートステーションにご相談いただけると幸いです。
動画URL
https://www.youtube.com/watch?v=vFZfkhkTKcs
お問合せ:鳥取県地域若者サポートステーション(よなご若者サポートステーション)
TEL:0859-21-5678
MAIL:yonago-sapo@roukyou.gr.jp
HP:https://torisapo.roukyou.gr.jp/